ややこしい菖蒲の歴史


『この花はアヤメですよね。』、『いやショウブじゃないですかね….。』

 

などの会話がよく聞かれる季節ですね。

 

アヤメもショウブも感じで書くと『菖蒲』なのに違うもので、さらにハナアヤメにカキツバタも加わると更にややこしい。

 

なぜこんなに名前が紛らわしいのか…?

本来『アヤメ』はサトイモ科のショウブのことで、実際の花は棒狀の地味なものに対し、大きな花が咲くものはアヤメ科のハナショウブ等です。

 

ショウブ菖蒲(ショウブ)はもともと中国原産で、日本では『石菖』(セキショウ)と名を変えられて呼ばれています。

 

ややこしい…。

 

5月5日の端午の節句に菖蒲湯に入る習慣がありますが、もともとは中国から平安時代に日本に渡ってきたもので、当時は女性のために行われた行事でした。

 

旧暦の5月は田植えの時期で、田植え前の汚れを払うための儀式として菖蒲とヨモギで屋根を覆った小屋を作って忌みごもり、ショウブの根を浸した酒を飲んだり、葉を家の廂に差し込んだりしたそうです。

    

後に読み方が『尚武』につながることから、武家の間から男の子の成長を祈る日となりました。

 

しかし当時の日本には菖蒲がなく、日本に元から生息していた地味な花のサトイモ科のショウブを代わりに使用し、後に中国から本家の菖蒲が日本に渡ってきた事がややこしさの始まり。

 

すでにサトイモ科のショウブに菖蒲の名が当てられ浸透してしまったため、本家の菖蒲が岩場などに生えることから石場の菖蒲で『石菖』と名づけられたそうです。

 

万葉の時代、ショウブは剣のような形の葉が立ち並ぶ様子が文目模様に見えるため、『アヤメ』と呼ばれていましたが、のちに同じような葉を持ちながらも綺麗な花がさくアヤメ科の品種が誕生。

 

また更にややこしい…。

 

ややこしいので、ショウブはサトイモ科の方を『アヤメ草』、アヤメ科の方を『花アヤメ』と言い分けるようになりましたが、現在ではアヤメと言えばアヤメ科を指すようになりました。

 

更に、アヤメに似た花にカキツバタがあります。

 

『いづれあやめか、かきつばた』

 

似ていてよく分からんとしてよく聞くフレーズですが、元ネタがあります。

 

平安時代の古事によると、源頼政が天皇に取り憑く、顔が猿、体は狸、手足が虎、尾が蛇の鵺(ぬえ)という魔物退治をしました。

 

後に天皇が褒美として頼朝が恋する菖蒲前という美女を賜ることになりました。

 

しかし条件があり、同じ衣装を着た12人の美女の中から菖蒲前を選ぶよう命じられたのです。

 

困った頼朝がその時の心情を詠んだ歌。

 

『五月雨に沢辺の真菰水たえて、いずれ菖蒲と引きぞ煩う』(梅雨で水がいっぱいになって、水没したマコモとアヤメどれか分からん)

 

これが後に『いずれあやめか、かきつばた』変化していったそうです。

カキツバタは主に水の中から生え、垂れ下がった花びらには白い模様があります。

アヤメは草原や山池など水はけが良いところに生え、垂れ下がった花びらには網目模様があります。

ハナショウブはやや湿った場所に生え、垂れ下がった花びらには黄色い模様があります。

 

公園や菖蒲園などで、時々アヤメやハナショウブも水の中に生えていることがありますが、これは時期的に涼を演出するために、開花時期に合わせて水を張っているそうです。